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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)1号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本件発明の要旨及び審決の理由の要点)が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

二 取消事由に対する判断

1 成立に争いのない甲第一号証(特公昭五七―五五〇八三号公報・本件公報)によれば、本件明細書には、本件発明が解決すべき課題ないし目的とした事項について、次のような記載のあることが認められる。すなわち、「この発明は多孔板よりなる燃焼体を赤熱させ、発生する熱線が透過体を透過して採暖する石油ストーブ用バーナの改良に係るものであり、多孔板を使用しても赤熱部は八五〇℃以上の温度を得ることができ、優れた暖房効果と優れた目視効果を得るものである。」・(一欄三三行ないし二欄一行)、「多孔板よりなる燃焼体の赤熱度合(赤熱温度)を向上する為には今迄も種々の工夫がされており、……等の構造が使用されているがまだまだ充分に完成されたものとは言いがたかつた。またこの改良の過程でガスバーナの赤熱体に使用される金網に着目し、透過体に近い外側燃焼板を金網で構成する提案がなされ……たが、……実用化には問題点が多く、製造上、耐久性の点で未だに実用商品として販売されていないものである。」(二欄七行ないし二〇行)、「この発明は問題点の多い金網による燃焼体を用いるバーナの実用化を断念し、多孔板による燃焼体を用いるバーナの改良研究に取組み、従来の多孔板を用いるバーナや金網を用いるバーナーとは異なる燃焼方式をみい出し、始めて多孔板による燃焼体を用いて八五〇℃以上の赤熱温度を得るバーナを実用化したものである。」(二欄二一行ないし二七行)、「この発明は従来のバーナに於る燃焼状態では禁止事項にされている外側燃焼体4から燃焼体4・5間隙外への引火現象を逆に利用するものである。……従来の考え方を根本的にくつがえし、特定の場所に制御された条件下で起された引火現象による燃焼では不完全燃焼ガスが発生しないことを見い出し、この燃焼状態を利用することによつて外側燃焼体の赤熱状態を向上したものである。」(四欄三一行ないし五欄五行)との記載のあることが認められる。右の明細書の記載と当事者間に争いのない特許請求の範囲の記載を総合すると、本件発明は、燃焼体自体を赤熱させ、そこで発生する熱線が透過体を透過して採暖する石油ストーブ用バーナの改良を目的とし、かつ従来、通常金網で構成され、燃焼部からの高温ガスによつて赤熱させるにすぎない赤熱体とは機能的ないし作用的に別個なものとして「多孔板からなる燃焼体」を認識したうえ、この多孔板からなる燃焼体の構成を工夫することによつて燃焼状態を改良して外側燃焼体の赤熱状態を向上させようとした点に特徴のある発明であることが理解される。そして、前記争いのない本件発明の要旨及び前掲甲第一号証によれば、右の目的を達成するために、本件発明は、特許請求の範囲記載のとおり「透過体6に近い外側燃焼体4の中央部及び上部に形成する小孔4´は、外側燃焼体4の下部の小孔4´及び内側燃焼体5の小孔5´より大きく、かつ燃焼ガスの一部が外側燃焼体4の透過体6側外表面で燃焼することに適当な大きさに設定」する構成を採用し、これによつて、多孔板からなる「外側燃焼板4の中央部及び上部の小孔4´は他の小孔より大きくしたから流路抵抗は非常に小さく、透過板6と外側燃焼板4との間隙のドラフトが、燃焼板4・5間隙のドラフトよりほんの少し強くなれば混合ガスが容易に外側燃焼板4の透過体6側に流出し、引火燃焼を開始」し(五欄三八行ないし末行)、「外側燃焼板4は多孔板で構成され、金網の様に表面に凹凸がないから燃焼炎が燃焼板4表面からリフテイング(炎が炎口から浮き上がる現象)することなく、燃焼板4の表面に付着して燃焼が行なわれる様になり、燃焼ガスと炎に触れて外側燃焼板4は外表面から加熱されるようにな」る(六欄一行ないし六行)という燃焼状態を招来したこと、すなわち、本件発明は、二つの燃焼体の間隙にのぞませた芯に点火すると、右間隙の下部から燃焼が始まつて順次上方に達して燃焼を続け、その中央部及び上部においては未燃焼の混合ガスの一部は外側燃焼体に形成される特許請求の範囲に記載された前記小孔から透過体側に流出して外側燃焼体の外表面に付着して燃焼し、その結果、外側燃焼体の赤熱状態を向上させる効果を得ることができたこと、具体的には、外側燃焼体4の外表面に炎もしくは高温ガスにおおわれるようになり、従来の多孔板製の外側燃焼体4の赤燃温度が向上しない最大の問題点であつた外表面が燃焼空気に触れて冷却される現象を解消し、八五〇℃以上の赤熱温度を可能とし、(同六欄一六行ないし二二行)、また「金網を使用する時と異つて空間率は五〇%程度でよく、金網の七〇%程度の大きな空間率と比べれば赤熱面積が増加し、輻射効率を増大させたこと(同六欄二三行ないし二六行)、更に燃焼体4、5は多孔板で構成したから強度は充分であり、従来の金網を使うものより、製造しやすく、熱的に安定しており、多量生産時に起きがちな製品のバラツキも充分性能を維持できる範囲におさえることができるようになつたこと(同六欄三二行ないし三七行)などの効果を達成したことが認められる。

また、本件発明における「多孔板」の意義については、特許請求の範囲にもこれを限定する記載はないが、既に認定した本件発明の目的ないし課題及び作用効果、とりわけ、「この発明は問題点の多い金網による燃焼体を用いるバーナの実用化を断念し、多孔板による燃焼体を用いるバーナの改良研究に取組み、従来の多孔板を用いるバーナや金網を用いるバーナとは異なる燃焼方式をみい出し、始めて多孔板による燃焼体を用いて八五〇℃以上の赤熱温度を得るバーナを実用化したものである。」、並びに「外側燃焼体4は多孔板で構成され、金網の様に表面に凹凸がないから燃焼炎が燃焼板4表面からリフテイングすることなく、燃焼板4表面に付着して燃焼が行なわれる様にな(る)」との記載に照らしてみても、本件発明の「多孔板」として予定されたものは、パンチング板のように表面に凹凸のない多孔板をいうものと認められ、少なくとも金網、ラス網は本件発明の「多孔板」には含まれないものと解するのが相当である。

2 成立に争いのない甲第六号証(実公昭四七―一四五二八号公報・第一引用例)によれば、第一引用例記載の石油燃焼器具の燃焼筒は、多数の小透孔を有する内炎筒3、外炎筒4及び外炎筒の外側に設けた外筒5とより成る燃焼部の上部に外筒の径より大径の耐熱透明物質にて形成した炎導筒7と、金網よりなる赤熱ネツト筒6、多数の小透孔を有する案内筒3´とにより形成した赤熱部を載置するとともに、赤熱部における案内筒3´上方に空気放出用の間隙19を設けたものであり(図面(二)参照)、その燃焼筒の燃焼状態について「灯心2に給油し点火すると、灯油は気化し、内、外炎筒3、4に設けた多数の小透孔から必要空気を取り入れ間隙15内で完全燃焼する。そこで完全に燃焼した燃焼ガスは、燃焼部上に載置した赤熱部に入り、赤熱ネツト筒6の内、外を燃焼ガスが上昇し赤熱ネツト筒6を赤熱させる。」との記載(二欄一七行ないし二三行)があることが認められる。第一引用例における右の説明及び図面に照らすと、第一引用例記載の燃焼筒における燃焼部は、バーナ火口1、内炎筒3、外炎筒4及び外筒5で構成され、この燃焼部の内、外炎筒の間隙において灯油の気化ガスの完全燃焼のなされることが予定されており、その燃焼部のうえに赤熱部が載置されていて、その主要部は、案内筒3´、赤熱ネツト筒6及び炎導筒7から構成されていて、そのうちの赤熱ネツト筒は燃焼部からの上昇した高温の燃焼ガスによつて赤熱される赤熱体であることが明らかである。もつとも、前掲甲第六号証によれば、第一引用例には、「なお炎導筒7は外筒5の径に比べ大径であるため、外炎筒4と外筒5との間から流入した二次空気は、ここで圧力が弱められるため、間隙18の内圧より間隙17(7とあるは誤記)の内圧が大きくなり、放熱ネツト筒6の炎導筒側の表面で燃焼を行なわせることができる。」との記載(二欄三四行ないし三八行)があることが認められるが、この記載は、燃焼部における完全燃焼を説明したのちにおける「なお書き」であること、「燃焼を行なわせることができる。」との表現が用いられていること及びネツトの隙間の大小について特段の記載がないことに徴すれば、基本的機能として完全燃焼を行わしめるために設けられた燃焼部における燃焼のあとに未燃焼ガスの残ることも避けられないことから、補足的にこの未燃焼ガスを燃焼しつくすことを意味するものと理解するのが合理的である。

3 ところで、審決は、本件発明の多孔板と第一引用例の赤熱ネツト筒のネツト(金網)が多孔体である点で共通し、本件発明の外側燃焼体の中央部及び上部と第一引用例の赤熱ネツト筒が赤熱体である点で共通し、いずれも多孔体であることを前提として、本件発明の内側燃焼体と第一引用例の内炎筒及び案内筒、本件発明の外側燃焼体と第一引用例の外炎筒及び赤熱ネツト筒をそれぞれ対応させ、両発明とも「多孔性よりなる二つの燃焼体」の構成を有する点で共通する旨認定判断する。

しかし、前記のとおり、金網は本件発明の多孔板に含まれるとは認められない。また、本件発明の外側燃焼体の中央部及び上部と第一引用例の赤熱ネツト筒とは、審決が摘示するように、ガスが通過する多数の小孔を有し、かつ比較的熱容量の小さい構成になつている点で形式的共通性を有しているが、前記認定のとおり、本件発明においては、外側及び内側燃焼体の間隙においてガスの燃焼が行われるとともに、外側燃焼体の中央部及び上部では、燃焼ガスが小孔から流出してその外表面で燃焼し、その熱により外側燃焼体が赤熱されるのに対し、第一引用例の赤熱ネツト筒は燃焼体を形成せず、かつ燃焼部の上に載置され、燃焼部から上昇した高温の燃焼ガスにより赤熱される赤熱体にとどまるから、本件発明の外部燃料体の中央部及び上部と第一引用例の赤熱ネツト筒とも赤熱されるからといつて、両者を共通した構成としてとらえることはできない(もつとも、第一引用例の赤熱ネツト筒の炎導筒側表面でガスの燃焼が行われることもあるが、前認定のように、これは補足的なものにすぎず、小孔の微妙な調整によりもたらされる本件発明の外側燃焼体の中央部及び外部の外表面における前記燃焼機能とは対比に値するものではない。)。そして、本件発明においては、内側及び外側燃焼体の間隙においてガスの燃焼が行われるのに対し、第一引用例でガスの燃焼が行われるのは、外炎筒と内炎筒の間隙であつて、その上に載置される案内筒と赤熱ネツト筒の間隙でないことは既に述べたとおりであるから、前記のような本件発明の内側及び外側燃焼体と第一引用例記載の発明との対応自体相当ではなく、「多孔体よりなる二つの燃焼体」の構成の点で両者が共通性を有するものということはできない。

したがつて、審決の両発明の右の共通点についての認定判断は誤りであり、右の誤りは、本件発明における前叙の目的ないし課題とこれを解決するための手段である構成、つまり、多孔板からなる燃焼体における小孔の微妙な調整の技術的意義を正確に把握しなかつたことに基づくものといわざるを得ない。

この点、被告は、本件発明における「外側燃焼体の中央部及び上部」は赤熱部であると同時に燃焼部を構成するものであり、第一引用例の赤熱ネツト筒もまた赤熱部を構成すると同時に燃焼部を構成するものである旨主張するが、第一引用例における赤熱ネツト筒が燃焼部を構成するものとみられないことは、右に認定説示したとおりであり、また、被告が、効果の面からみても、本件発明と第一引用例記載の技術的思想が同一であるとして引用する第一引用例の記載箇所は、専ら赤熱部としての機能ないし作用を説明したものであつて、本件発明のように外側燃焼体の中央部及び上部の透過体側の外表面における引火燃焼によつて外側燃焼体自体を赤熱させる効果について述べたものではないから、被告の右の主張は失当というべきである。

そして、第一引用例には、右の本件発明の特徴的な技術思想を示唆する記載はなく、また、成立に争いのない甲第二号証(実公昭四七―一二一八四号公報・第二引用例)、第三号証(特開昭五二―一六〇二四号公報・第三引用例)、第四号証(特開昭五二―三三一三五号公報・第四引用例)及び第一〇号証(特開昭五〇―一五七九三四号公報・第八引用例)記載のものは、いずれも外側燃焼体の外表面に付着して燃焼させようとするものではないから、それらに記述された小孔の構成も、本件発明と同じ目的ないし課題の達成のために採用されたものとはいえず、したがつて、それらに記載された小孔の大きさ、開口面積及び小孔の大きさの比率等を検討しても、これらは本件発明と第一引用例記載のものとの相違点の判断のための根拠となり得るものではないというべきである。また、前記各引用例における記述から本件発明における前叙のような作用効果も到底予測し得ないものと認められる。

4 右のとおりであるから、審決における本件発明と第一引用例記載のものとの共通点の認定判断は、本件発明における基本的な技術事項についての誤つた理解に基づくものであり、これがその後の相違点についての判断の誤りを招来し、ひいては、審決の結論をも誤らせていることは、当事者間に争いのない前記審決の理由の要点における記載から明らかである。したがつて、審決は、違法として取消しを免れない。

三 以上のとおりであるから、審決に認定判断を誤つた違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、正当としてこれを認容することとする。

〔編注1〕本件発明の要旨は左のとおりである。

多孔板よりなる二枚の燃焼体4・5の間隙に芯収容器1に装置した芯2をのぞませ、かつ一方の燃焼体4の外方に耐熱性熱線透過物質にて形成した透過体6を設け、燃焼体4・5から発生する熱線を透過体6を透過して放射する石油ストーブ用バーナに於て、透過体6に近い外側燃焼体4の中央部及び上部に形成する小孔4´は、外側燃焼体4の下部の小孔4´及び内側燃焼体5の小孔5´より大きく、かつ燃焼ガスの一部が外側燃焼体4の透過体6側外書面で燃焼することに適当な大きさに設定したことを特徴とする石油ストーブ用バーナ。(図面(一)参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

図面(一)

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図面(二)

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